日曜日の終わりに
2007年 11月 18日
日曜日の夕食は早めに済ませるのが習慣になっている。
ちょうどサザエさんを見終える頃、食べ尽くした皿の上には、二人分の箸やらスプーンやらが積み重なる。
彼女はテーブルに肩肘を付いてタバコをくゆらせ、僕はコーヒーをすすりながらテレビに見入る。
「ジャーンケーン…」
何週間か前から僕は感づいていたのだが、彼女はサザエさんとのジャンケンに勝ったことがない。
「グー」
彼女は肘をついた右手の指にタバコを挟んだまま、かったるそうに口だけを突き出して、そう言った。
「また、あいこだな。ってか、ずっとあいこじゃないか」
僕はくくっと笑いながら、彼女を冷やかす。彼女はジャンケンに勝ったことはないのだが、ことごとくあいこなのだ。いつもサザエさんと同じ手を出す。
彼女は灰皿を手元に引き寄せると、吸いかけのタバコを揉み消した。灰皿から立ち上る数本の濃い煙の帯が、僕の顔をいぶす。
彼女は嗤った。
「サザエさんが何を出すかわかるんだもん。ぜーんぶ、お見通し。だから、あえて、あいこ」
僕は釈然としないまま笑い返そうとしたが、彼女の目が笑っていない事に気づいて、慌てて視線を逸らした。
彼女はやり場を失った僕の視線を、ずる賢そうに捕まえた。
「昨日の夜、誰と一緒に居たのかしらね」
彼女はまた嗤った。
(ぜーんぶ、お見通し)
彼女の声が、僕の頭の中に何度も何度も鳴り響いた。
【了】
「瞼の裏側」について
ちょうどサザエさんを見終える頃、食べ尽くした皿の上には、二人分の箸やらスプーンやらが積み重なる。
彼女はテーブルに肩肘を付いてタバコをくゆらせ、僕はコーヒーをすすりながらテレビに見入る。
「ジャーンケーン…」
何週間か前から僕は感づいていたのだが、彼女はサザエさんとのジャンケンに勝ったことがない。
「グー」
彼女は肘をついた右手の指にタバコを挟んだまま、かったるそうに口だけを突き出して、そう言った。
「また、あいこだな。ってか、ずっとあいこじゃないか」
僕はくくっと笑いながら、彼女を冷やかす。彼女はジャンケンに勝ったことはないのだが、ことごとくあいこなのだ。いつもサザエさんと同じ手を出す。
彼女は灰皿を手元に引き寄せると、吸いかけのタバコを揉み消した。灰皿から立ち上る数本の濃い煙の帯が、僕の顔をいぶす。
彼女は嗤った。
「サザエさんが何を出すかわかるんだもん。ぜーんぶ、お見通し。だから、あえて、あいこ」
僕は釈然としないまま笑い返そうとしたが、彼女の目が笑っていない事に気づいて、慌てて視線を逸らした。
彼女はやり場を失った僕の視線を、ずる賢そうに捕まえた。
「昨日の夜、誰と一緒に居たのかしらね」
彼女はまた嗤った。
(ぜーんぶ、お見通し)
彼女の声が、僕の頭の中に何度も何度も鳴り響いた。
【了】
「瞼の裏側」について
by riv-good
| 2007-11-18 20:44
| 掌編小説『瞼の裏側』