開かない自動ドア
2005年 02月 02日
昼どき。冬休み中こそ、駅前のマクドナルドは高校生やら親子連れでごった返していたのだが、今はけっこう空席が目立つ。
昼食はたいてい吉野家かマクドナルドで済ませる。理由は他でもなく「安いから」なのだが、最近はどちらかというとマクドナルドに行く比率が増えた。長く席に座っていられるからだ。
駅前で受け取ったA3サイズのクーポンを鞄に忍ばせ、北風吹きすさぶ通りを伏目がちに歩く。ほどなくして交差点にたどり着く。
交差点の一角にはPARCOが、そしてその対角線上のビルにマクドナルドがある。一階が書店、その二階がそうだ。
二階へ上るにはエスカレーターを使う。壁と壁の間を突き抜けるような細くほの暗いエスカレーターだ。軽くあごを上げた視線の先には自動ドアが見える。店内の照明が幅広い光の束となって漏れている。
エスカレーターを上り詰めた時点で、店内が見渡せる。正面奥の突き当りがレジになっているが、人混みは見えない。今日もまた順番を待たずにオーダーできそうだ。自動ドアのマットに足が掛かる。もう一歩踏み出す。
しかし、自動ドアはわたしを拒んだ。開かない。
極限まで近づく。鼻先がドアに触れそうだ。
開かない。
頭上のセンサーを見上げる。どうやら正常に動いているような気がする。正面を向き直す。
開かない。
ドアとドアの合わせ目に指を差し入れる。力で押し広げようとするが、さすが「自動」と呼ばれるだけあって、手動ではびくともしない。
どこかに故障中とか書いてあるのではと見回す。しかし、そのような掲示は見当たらない。
その場でジャンプしてみる。ただし、あまり派手にやると他の客の注意を引きそうなので、地味にやる。
両足を1.5cmほど宙に浮かせて着地。
開かない。
もう一度、ジャンプ。視線は無意識のうちに頭上のセンサーを見つめている。着地。
開かない。
ジャンプ、ジャンプ。
開かない。
そろそろ店内からの視線が気になり始める。
後ずさりする。一歩退き、一歩前へ。
開かない。
一歩退き、一歩前へ、そして足踏み。
開かない。
変な汗が背中を伝う。はっとして背後を振り返るが、幸か不幸か、エスカレーターから人が上ってくる気配は無い。乗り手のいない、上り専用で一方通行のエスカレーターは虚しく空転し続けている。
上り専用、一方通行……。ややあって、ああそうかと肝心なことに気づく。閉じこめられてしまったのだ。このマクドナルドを出るには、一度は店内に入り、別の出口から階段を降りるしかないのだった。
ともかく入らないことには、身動きがとれない。気を取り直して、もう一度自動ドアに向き直る。
その刹那であった。唐突にも鼻の奥をむず痒さが横切った。
っくしょん!
ウィイイイン。
かくして、自動ドアは開かれた。その気配を感じてかカウンターの奥から、
いらっしゃいませ~
と甲高い声が聞こえてきた。
何事もなかったかのようにカウンターへと歩を進める。しかし、頬は正直なもので次第にほんのりと赤らみ始めた。
by riv-good
| 2005-02-02 12:43
| ヒトの衣谷さん